ILY,辻原:本エントリーでは、infocom社の新規事業としてスタートした「Lookat」のサービスについて、プロジェクトチームに実施したインタビューを公開いたします。
インタビュアーはILY,incの辻原が担当させていただきます。また、プロジェクトチームの皆様の敬称は略させていただきますのでご了承ください。
まずはLookatのご紹介をさせていただきます。
Lookatは9月にベータ・プロトタイプ版を発表したinfocom社のサービス・メディア群の総称であり、企業向けサービスと個人向けメディアなどを含みます。経済成長と持続可能性の両立を目指し企業・個人におけるSDGsの推進を支援するサービス群です。
現在パイロット版として公開されているのは、次の3つになります。
●Lookat social mater
●Lookat partners
●Lookat world
まず、「Lookat social mater」は企業のSDGsの取り組みに対しゴールを設定し進捗を可視化、レポーティングを行うサービスです。企業のSDGs推進における取り組み開始の障壁を取り除き、持続可能な仕組みを提供いたします。また、取り組みは数値化されレポーティングが可能なためPRや経営報告に活用が可能です。
つぎに「Lookat partners」はB2BのSDGs推進商品・サービスの企業導入を推進するメンバーシップ&コミュニティです。Lookat partnersでは事業のバリューチェーンをSDGsに準じ改善することを目的としています。
そして「Lookat world」は個人向けのSDGsを知る・学ぶメディアです。大人のみならず子どもの理解を促し興味を育成するために関連記事や情報を発信していきます。
Lesson.1
現代に必要なビジネスモデルを開発するということ
ILY,辻原:本プロジェクトがスタートしたきっかけをお聞かせください。
infocom 葉葺:私が元々携わっていた事業の傍ら、様々なコミュニティや勉強会に参加してきました。私自身もワークショップデザイナーという活動を行いながら、その中で2017年に「2030SDGsカードゲーム」の体験したことが、思い返せば大きなきっかけだったのかもしれません。
その時は正直あまり興味を持てなかったのですが、2018年、2019年...と年々「このテーマは非常に重要なものかもしれない」と認識を高めるようになりました。
というのも、私が当時携わっていた防災事業関連で参加させていただいた、2019年の防災のダボス会議においてSDGsが大きなテーマとして掲げられていたのを現場で目にしたからです。あらためて「これからはSDGsが事業変革の主題になる」と確信しました。
しかしその時同時に感じたのは、行政・民間企業・市民...それぞれの粒度がバラバラだという課題です。重要性が強く語られても、なかなか市民生活に落ちてこないのでは?と疑念を抱きました。
その原因はSDGs認知度や理解度の低さにもありますが、各セクターや企業の本気度や取り組みが
一過性だったり、セクターごとに閉じてしまっていることにあると感じました。
私はSDGsのいいところは「事業ベース」であるということだと考えています。決してボランティアやCSR的活動でなく、経済を回しながら社会・環境にアプローチするという手法は現代において必然性が高いはずです。そしてそれは、イチ企業や団体だけでは決して達成し得ないものです。
それらカードゲームやテーマとの出会い、課題感に加え新規事業立ち上げの機会があり、今回「Lookat」をSDGs関連事業として立ち上げよう、という運びになりました。
Lesson.2
COVID-19で実感した
「世界はつながっている」ということ
ILY,辻原:Lookatのビジネスモデルをデザインしていたのが2020年の3月〜5月ですので、新型コロナウイルス感染拡大防止のために都から緊急事態宣言が出された外出自粛期間でしたよね。この時期に新しい事業設計を行うというのは見通しも難しく、判断が難しい場面も多かったのではないでしょうか?
infocom 葉葺:判断における難しさは当然ありました。しかしコロナ以前もVUCAと言われたり、大きく変化する社会に対し未来予測は難しかったと考えています。
私がコロナ禍中に強く感じたのは「世界や社会はつながっている」という強烈な実感でした。中国の武漢で生まれた(とされる)ウイルスが世界に広がっていき、広がった先の国や地域で、その社会システムや構造に合わせて感染者数が広がったり、多くの死者数を出してしまったり...。
見通しが立たない自粛期間でも「SDGs領域での新規事業」についてはむしろ確信が強まるようでもありました。
現在でも変わらずこれからの社会に必要だと感じています。
Lesson.3
SDGsの取り組みをB2Bから支援することの重要性
ILY,辻原:ここからはビジネスのデザインについてお聞きしていきたいと思います。
Lookatのビジネスデザインにおいては、あらゆるセクターや人を緩やかにつなぎ、小さな経済圏、ひとつの生態系のような仕組みになることが肝要でした。
しかし、その中でも特にB2B取引に焦点があたっています。SDGsの取り組みをB2Bから支援することの重要性についてお話しをお聞かせください。
infocom長内:私は社内の既存事業で、様々なB2Bの商材やサービスに触れてきました。B2Bは一度の取引額が大きい、という特性があります。ビジネスで貢献できれば、より与えられる影響が大きいという点は事業設計の切り口として重要です。
例えばゴミを分別して捨てましょうね、というtoCの啓蒙的な活動よりも、そもそも産業廃棄物を出さない・環境に負荷をかけないバリューチェーンやプロダクトを様々な企業とともに構築するほうが、1つのモノを動かすにしてもインパクトが大きいですよね。私たちinfocomが携わるべきはそういったレイヤーのシフトチェンジであると捉えています。
私たちは企業にヒアリングをするなかで、企業レベルでSDGsを推進していくために主に3つの障壁があることがわかりました。
1.SDGsの認知が低いため社内を説得させられない
2.必要性は感じているものの、第1歩を踏み出せていない
3.取り組みを継続することが難しい
他にも課題はありますが、まずはこういった課題を取り除いてあげることによって取り組み障壁を下げられるのはと考えています。
また、事業によっては「既存バリューチェーン 」の見直しによって一部SDGsゴールに貢献できるものもあります。そういった機会を提供することも私たちの重要な取り組みです。
infocom高橋:私は、本プロジェクトに参加する中で「SDGsに対する自分ごと化」に課題を感じています。17のゴールはあまりにも大きすぎというか、日本ではそれらの課題を日常生活で肌身に感じることは多くありません。
コンビニやスーパーのプラスチックバックが有料になったり、プラストローが廃止されたりなど企業の取り組みに触れることはあっても、一個人として「これは地球規模の問題なんだ」と理解するには少し遠いように思います。
その点においてもB2Bでの取り組みに重要性を感じています。企業間取引のうちで貢献できる仕組みは日本でSDGsを広げていくのに効果的であると考えています。
Lesson.4
SDGsに取り組む第一歩を支援するためのLookat
ILY,辻原:Lookatのデザインにおいては「第一歩を支援する」がコンセプトの中心にありつづけました。その対象は企業、NPOなどの団体、個人...さまざまです。Lookatを通じて提供したい本質的な価値とはどのようなものでしょうか。
infocom葉葺:私もいろいろ個人的に勉強したり、セミナーに参加したりしてきたのですが、とにかくSDGsって分かりづらいんですよね。あと、いわゆる「SDGs警察」警察も多い(笑)
私が体験し非常に共感したのは「2030 SDGsカードゲーム」です。個人的にファシリテーション資格も取得しました。このカードゲームが秀逸なのは「世界の状況メーター」が見えることです。
この状況メーターは「経済」「社会」「環境」のバランスを示し、参加者に相互支援と協力を求めます。一人のプレイヤーが黙々とプレイし一人勝ちするようなゲームじゃないんです。
この世界の状況メーターは、COVID-19の感染者数や重病者数による病床使用率を示すのに使われていたダッシュボードによく似ています。今まさに、世界がどうなっているのかを「見せている」のです。
DXではデータダッシュボードによる「見える化」が重視されることが多いですが情報は「見える」だけでは人を動かすことはできません。
意識的に行動を促すような「見せる化」というか、わかる人にだけわかればいいといった単純な情報の羅列や一覧化でなく、データにこそ意思を持った編集が必要であると考えました。「行動しなきゃ!」と一人ひとりの気持ちを変容させていくことがなによりも大事です。
「第一歩を支援する」には2つの意味があって
①気持ちを作る
②アクションしやすくする
データ化や見せる化によって①を支援し、対企業・団体・個人にそれぞれ②をサービスとして提供していきたいと考えています。
日本はSDGsへの意識が低いと指摘を受けることが多いですが、「遅れている」と嘆くよりも、まず踏み出せる環境を準備してあげる。これも本プロジェクト・サービスの本質的な価値だと思っています。
Lesson.5
子どもたちの世代に残したい世界を
生み出していくこと
ILY,辻原:私がビジネスデザインに参加させていただいて、とてもユニークだと感じたのはLookatは「社会の縮図のようなビジネスモデル」であるという点です。
一般的なビジネスモデルは、だれに何を提供してお金をもらうのかという、1対n(n=1以上)の取引の構造です。Lookatの場合1対n対n対n対...といった形で「私」を起点に取引が様々な形でつながっていくのがとてもユニークです。
infocom葉葺:LookatはまずB2Bでサービス利用や取引を促し、次にtoCにデータを開示します。そこからCのアクションによって、ソーシャルセクターやNPO企業など社会課題事業に取り組む企業や団体にリソースが還元される形です。そしてそれらがまたCに還元され、Bの行動を促す...といった循環を設計しています。
Lookatはそれらがファンクション的にだけでなく「よい社会を実現する」という意志を持ち意味的につながっているような世界観を目指しています。
SDGsは一見とっつきにくいですが「自分たちの子ども世代に、未来の世界をよいものとして引継ぎたい」という言い方なら共感する大人は多いはずです。あらゆる意味で環境を作る、というのは大人にしかできない仕事ですし、私たち大人世代がやるべき仕事でもあります。
リモートワークになり家族との時間が増えた中で、これまでの仕事を見直す人も増えたと思います。さらに「何のために働くのか」という禅問答のような問いを、COVID-19に突きつけられたようにも思います。世界のあるべき姿を想像しながら、意志を持って働くことを求められていると感じています。
Lesson.6
これからの取り組みについて
ILY,辻原:Lookatはこれからユーザーやパートナーを獲得していくフェーズに入ります。ぜひこれからの取り組みについてお聞かせください。
infocom長内:Lookatを通じて、企業のSDGsの取り組みを具体化するお手伝いをして行けたらいいと思っています。SDGsのゴール自体のレイヤーが大きく抽象度が高い中で「目の前から本当に変えていけるのは何か?」という視点でさまざまな企業の方と対話していきたいと考えています。
また、ミレニアム世代と言われる若年層や今の10代などは「SDGsネイティブ」と言えるほど環境や社会に対する関心が高い傾向にあります。小学生の教科書にもSDGsは掲載されているほどですので、むしろ子ども世代から学ぶことも多いのではと。そういうったきっかけも作りたいと考えていますし、彼らの未来に対する不安や漠然とした想いを受け止め、具体的に行動できるお手伝いができたらいいなと思っています。
infocom高橋:Lookatを当たり前にしていきたいと思っています。多くの人が課題を持って社会改善に取り組める、そういうシンボルになりたいです。国連はSDGs達成を2030年と定めていますが、2030年まではあと10年しかありません。浸透のためにスピードを意識していきたいです。
infocom葉葺:「企業は社会の公器」といわれるように利益によって社会に貢献していく、それが企業の根源的な役割です。しかしそれは簡単なことではありません。
私は世界を本当に変えることができるのは「コレクティブ・インパクト」であると考えています。私が当初課題を感じたように各セクターやステークホルダーの活動がバラバラなままでは、実現は難しいでしょう。様々な企業、セクター、団体、個人や家族、究極的には利益は一致するはずです。そのために協力できないか、協力するし社会を変えていくためのエントリーモデル、あるいはデータプラットフォーム、それがLookatです。
これからは様々な企業や団体・個人の方々との対話を通じ、サービスの改善や場づくりをしていきたいと考えています。
私たちの活動やLookatサービスに興味をお持ちの方は、ぜひお問い合わせください。